3月20日(木) ロータリー財団・米山記念奨学委員会卓話
進行:ロータリー財団・米山記念奨学委員会 菅原 正行 委員長
本日の講師、本郷 由美子 様をご紹介致します。本郷様は千葉県出身、千葉大学卒。学生時代と卒業後、合わせて2年間インドネシアに留学され、2003年北海道新聞社に入社。釧路支社(2003~06)、千歳支局(2006~09)で記者として勤務した後、本社(札幌)編集本部に在籍し、記事の見出しやレイアウトを担当。2012年8月から2013年8月まで1年間休職し、アメリカ・ピッツバーグ大学公共政策・外交大学院に留学されました。
本日の卓話の題目は「アメリカにおける新聞の衰退と社会への影響」となっております。それでは本郷様、よろしくお願い致します。
卓話:北海道新聞社 編集本部 本郷 由美子 様
皆さんこんにちは。北海道新聞社で記者をしています、本郷 由美子と申します。5年前に千歳支局で千歳の経済を担当していまして、自衛隊、市役所、空港など色々な所を取材させて頂きました。5年前の事ではありますが、改めて今ここに来まして、そうそうたる顔ぶれの方々を拝見し、少々緊張しております。昔、取材をさせて頂いた方々が沢山いらっしゃり、感慨深い思いですし、こちらのホテルにも何回か取材に来させて頂きましたので、懐かしく思っています。さて、インターネットが普及して以来、新聞が世界中で危機に瀕しています。アメリカでは記者が解雇され、メディアは幾つかのメガ企業に独占されるようになり、2007年以来、少なくとも200紙が紙での発行を終了する事態となりました。先ほどご紹介にありましたが、北海道新聞社では1年間の留学制度があり、それを利用し、札幌のロータリークラブに申し込みをした上で、3枠の内の1枠に入り、ロータリー財団の奨学金で留学をさせて頂きました。本日はアメリカの新聞業界の衰退と、その社会への影響を知る事で、まだアメリカよりはマシとされる日本の新聞業界の今後について考察したいと思います。
~アメリカにおける新聞の衰退と社会への影響~
※本日の卓話の概略画面です。(クリックしてご覧下さい。)以下、プレゼンテーション画面に沿って卓話が進められました。本郷様から説明されたコメントと共にご紹介致します。
アメリカのジャーナリズムに関する本に書いてあった言葉より:新聞のクライアントは読者であり、ジャーナリズムのクライアントはコミュニティです。読者は直接的にまたは間接的にジャーナリストが行っている政府の監視、情報収集、分析、世論の形成、などに関して料金を支払っています。記者は全ての個人の読者の興味のある話題を全て調べて提供する事は出来ないので、報道のクライアントはコミュニティである、と言えます。
写真1:アメリカ新聞協会によるグラフです。紙の広告収入は2006年から55%落ちています。デジタル広告は全体の広告収入の15%になっていますが、紙広告の劇的な減少をカバーするには至っていません。2012年の割合では、デジタル広告が1ドル増える毎に、紙広告が15ドル無くなっている、という計算となります。これまで新聞に掲載されていた広告は、就職サイト、中古車サイト、不動産サイトなどのサイトに移っています。
写真2:購読費収入は2003年から2012年までに7%減少していますが、広告収入に比べれば比較的安定していると言えます。山なりに少し上がっている時期はスーパーのクーポンなどを入れる事によって新聞の購読が一時的に増えている状況です。
写真3:一番の懸念は新聞記者の減少です。2000年以来、ニューズルーム(編集局)の被雇用者は30%減っています。人員不足から、専門的な分野や深い調査が必要な報道が減る原因になっています。
※写真2:まちから地元紙が無くなり、記者が居なくなったらどうなるでしょう?政府の不正が見逃される:よく知られる例は、カリフォルニアのベルというまちで起こった出来事です。ベル市の行政官(事務方トップ)と、その他の市の幹部が驚く程、高い給料を貰っていました。この行政官の給料はオバマ大統領の2倍の78万ドル(7,800万円)。2010年にロサンゼルスタイムスが報じました。もしプロの記者が定期的にこのまちの議会や予算を監視していれば、市長達が4年間不当に得ていた市民の税金からなる560万ドル(5億6千万円)の支出を防ぐ事が出来たかもしれません。
情報量の減少:例えばボルチモア・サンの記事は1999年から2009年までに32%、1991年からは73%少なくなりました。
特定の分野(宗教、健康、教育、ビジネスなど)での報道の減少を専門家が指摘しています。
調査報道の減少:時間を要する調査報道は、幾つもの分野の取材を掛け持ちしている少ない人数の記者にとっては難しいです。写真1・2:縮小するアメリカの報道業界の問題を克服しようと、ここ数年で数々の非営利メディア団体が設立されています。これらの団体は調査報道や、特定の分野(健康、学校、外国のニュース)に特化した報道を行っています。2009年にInvestigative News Network(調査報道ネットワーク)が設立され、80以上の団体が所属しています。ピッツバーグのパブリックソースという団体も所属しています。
写真3:ワシントンポストで調査報道記者として活躍し、様々な賞を受賞した事もあるシャロン・ウォルシュが編集長です。4人の記者は交通・インフラ、エネルギー・環境、社会問題、政治問題をそれぞれ担当。政治家の資金集めに関する疑惑や、環境に優しい事を売りにしている大学が敷地内に埋まっているシェールガスの採掘を検討している事などを報道しました。
地元紙「ピッツバーグ・ポスト・ガゼット」と提携し、無料で記事を提供しています。財団の寄付以外の収入は殆どありません。
写真4:アメリカには資金力のある慈善目的の財団が沢山ありますが、日本は少ないです。日本には寄付の文化もありません。日本では大学にジャーナリズム専攻が少ない為、記者の教育はマスコミ関係の営利を目的とした企業によるオン・ザ・ジョブトレーニングが基本です。アメリカにはミズーリ大学の様にジャーナリズム学校を持っている所が幾つか有り、自前の番組を持っている大学もありますが、日本では大学が非営利メディア団体を運営する力はありません。
写真1:欧州のように税金の免除や、カナダ・ケベックでの地方政府のローカル紙への資金援助などがあります。市民記者の活用は、これまでもツイッターやフェイスブックを利用するなどして各メディアが行っています(CNNのi-reporterなど)。ただ、情報が正確かどうかはチェックの必要があり、結局はチェックに人員が割かれます。ニューヨークタイムズはデジタル紙面で利益を上げてきているらしいです。日本では朝日新聞、日経、産経なども参入していますが、利益を上げられるかどうか分かりません。将来は道新も取り組んでいく事でしょう。
卓話が終了した後、川端会長から謝辞が述べられ、記念品が贈られました。
※本郷 由美子 様、お忙しい中貴重なお話を聞かせて頂き、有り難うございました。